タイヤの燃費影響評価

タイヤの燃費影響評価

タイヤ違いによる燃費影響の評価試験

 当協会では、最近注目されているエコタイヤ(低ころがり抵抗タイヤ)が実際の車の燃費のどのように影響するかを実測、解析、シミュレーションで評価する手法及びツールをいくつか用意しております。受託試験では以下に示すタイヤの試験・評価が実施可能ですが、お客様のお考え、目的、内容に応じて柔軟に対応いたしますので、試験項目や実施時期、試験条件等につきまして、JATA昭島研究室の技術課(Tel:042-503-7980 -メール: gijutu@ataj.or.jp)にご相談ください。

①テストコースでの各種タイヤを装着した車の惰行試験(コースは借用)
②シャシダイナモ上での車両惰行またはASR駆動法によるタイヤ抵抗比較試験
③シャシダイナモ上でのモード燃費測定(①、②による負荷設定での試験) 
④先進タイヤ試験機によるモード走行時のタイヤ損失測定(小野測器と連携) 
⑤タイヤ違いによる燃費改善率の推計計算


 自動車タイヤが燃費に関係するのは、走行時のタイヤ回転に伴うタイヤ部材の繰り返し変形や路面との摩擦、タイヤ自身が受ける空気抵抗による損失が、エンジン仕事に影響するためです。タイヤ損失のうちの約90%がタイヤ変形に起因するといわれていますので、損失の少ない低ころがり抵抗タイヤ、すなわちエコタイヤの開発が積極的に行われ、燃費への効果がアピールされています。こうしたタイヤのエコ性能に関しては、ユーザーの商品選択に必要な情報を提供する観点から、わが国では右図に示すタイヤのグレーディング(等級化)とラベル表示の制度が 導入されています。

 しかしタイヤのグレーディング表示と、そのタイヤを装着した個々の車の燃費改善効果との関係性がはっきりしないという指摘があります。その理由は、タイヤころがり抵抗係数RRC の試験方法とその表示単位(N/kN) が、自動車のモード燃費試験方法および燃費の表示単位(km/l)とが体系的に異なっているためと思われます。

そこで当協会では、複数のタイヤ間での燃費差を定量的に比較する評価試験や解析を受託により請け負っています。タイヤによる燃費影響度を現在の自動車燃費評価の試験方法に基づいて定量的に評価する場合には、以下の方法を用います。

公式の燃費試験法に則して各種タイヤの燃費関連性を評価する方法

 試験車に装着可能な複数のエコタイヤの燃費改善効果を比較するため、各々のタイヤに全て付け替えて以下の路上惰行試験を行い、路上走行抵抗を測定します。次にこの試験車をシャシダイナモメータにセットし、各々のタイヤを装着した後、各タイヤの走行抵抗を設定し負荷検証を行った後に、正式のモード燃費試験を実施します。

 この試験手法は論理的かつ正当な評価法ですが、比較タイヤの種類が多くなると、試験の作業工数が必然的に増加します。またコースの惰行試験では、風速、風向、温度、日射等の環境条件の変化も測定誤差を生む要因になりますので、路上での惰行試験は慎重に行わないとタイヤの性能差がモード燃費の試験結果に正しく反映されません。

4WDシャシダイナモメータを使って、タイヤの損失特性を比較する評価方法

①シャシダイナモメータによるタイヤ損失量の比較測定

 この方法は、4WDシャシダイナモメータに試験車を設置し、基準タイヤと複数の比較タイヤをそれぞれ4輪とも付け替えて、台上惰行による減速惰行時間を測定するか、あるいは4WDシャシダイナモメータ側からローラを駆動する時の前後ローラの回転力(ローラ表面力)を測定する方法で、基準タイヤとの差分を求める方法でタイヤ抵抗を比較します。 
車両側の全転がり抵抗は、シャシダイナモ上の惰行試験あるいはシャシダイナモのローラをASR制御で回転させる時のローラ表面力等から算出できますが、これらの方法では、原理的に個々のタイヤの損失を直接求めることはできません。しかし基準タイヤとの相対差が求められるので、タイヤ間の損失特性の比較を行うことができます。

②モード走行時のタイヤ損失量の測定

 この試験方法では、評価対象のタイヤを全輪に装着した上で、シャシダイナモのASR指令によりローラー側からJC08モード等の速度変化を与えて、前後ローラの表面力(ダイナモ駆動トルクからシャシダイナモ側の回転慣性力及び回転メカロスを差し引いた値)を求めモード区間で積算することにより、モード走行時の車両側の全走行損失を求めます。この損失には車両内部の動力伝達ロス分も含まれていますが、比較用の基準タイヤとの差分を求めることにより、モード走行時のタイヤロスの違いを見ることができます。なお減速中はマイナス慣性力が作用することによってタイヤ自身のロス分は補われるので、ロスの積算処理には含めません。この試験手法では過渡走行条件下でのタイヤ損失が求められるので、モード燃費との関係性をより正確に見ることができます。 この試験手法でも個々のタイヤの損失量を直接測定するものとはなりませんが、基準タイヤとの差分を取ることによりタイヤ間の相対差が求まられるので、結果的に実走行状態のような加減速運転時のタイヤの損失特性(①の定常条件の時の損失よりも大きくなるのが一般的)が比較できます。

タイヤの温度特性の評価試験

 タイヤのころがり抵抗は、タイヤ温度によって変化することが知られており、温度が上がるほど抵抗値が小さくなります。タイヤの温度は自身の回転損失に伴う発熱と外気温及びタイヤへの冷却風の当たり方、さらにタイヤとの接触面(路面やローラ)の温度条件に影響されて変化します。実路での転がり抵抗の測定が安定しないのもこのことが原因です。
 当協会昭島研究室では、下左の写真のようにモード走行中のタイヤ温度変化をリアルタイムに計測する試験も実施可能です。
 また連携している(株)小野測器の先進多機能タイヤ試験器を用いて、下右図のようにタイヤ温度を変化させてタイヤ転がり抵抗の温度係数を求める試験も行うころができます。(この試験の場合は、使用設備の関係で小野測器との共同実施が前提となります)

さらに下の写真のようにモード走行中の回転タイヤの表面温度分布もリアルタイムに測定することができます。

タイヤと燃費の関連性を基礎としたタイヤ単体の試験と解析の方法

テストコースでの惰行試験による走行抵抗測定とシャシダイナモメータ上での燃費測定は、大がかりな設備が必要となる上に、試験手順が複雑で手間がかかることから、多数のタイヤを対象にした性能比較に向いていません。
そこでJATAは(株)小野測器と協定を結び、同社の開発した先進多機能タイヤ試験装置を用いて、タイヤの燃費影響度をより直接的に把握できる新しいタイヤ試験・解析の方法を提案しています。
以下の図に、この先進多機能タイヤ試験装置の外観ならびに組み込み機能の概要を示します。より詳しい内容はこのホームページの技術解説頁の「自動車用タイヤの低燃費性とその評価方法について」に掲載してあります。 この先進タイヤ試験装置は、試験モードの目標車速に追従する速度制御とローラ側での実車相当と同等の負荷吸収の機能を備えています。タイヤとローラは温度チャンバーに収められ、各々が独立の温度調節機能を有するため、タイヤ周囲温度とローラ表面温度を独立して制御し試験管理ができます。

 当協会は(株)小野測器と連携して、この先進タイヤ試験器を用いたタイヤ間の性能比較試験を実施いたします。試験を検討されているお客様は、試験タイヤの数、種別など、JATA昭島研究室の技術課(Tel:042-503-7980 -メール: gijutu@ataj.or.jp)にお問い合わせください。
 このタイヤ試験機は、屋外での惰行試験のように気象要因に左右されずに、安定的かつ高精度にタイヤのモード損失特性を評価できるわが国唯一の装置です。
 本装置では、下図に示した機能を活用して、各種走行条件(モード走行含む)のタイヤ単体の損失率(kJ/km)などを求めることができます。
 このタイヤ試験の結果と下に示す解析ツールを組み合わせることで、タイヤの違いが燃費に及ぼす影響度を定量的に比較評価できるようになります。

(株)小野測器製 先進多機能タイヤ試験装置の外観
先進多機能タイヤ試験装置の構成と制御・計測機能(小野測器資料)

先進多機能タイヤ試験装置を用いた解析手法および解析結果の例

基準タイヤで燃費を測定した車に別のタイヤを装着した場合の燃費の変化を,タイヤ単体試験の結果から予測する手法を開発し、自動車技術会でJATAが研究発表を行いました。以下にこの手法の概要を示します。燃費Fは (1)式で定義される値ですが,この式の分母,分子にモード全体の車両仕事量(kJ)をかけて整理すると, F は(2)式に変換できます。この式をベースに、タイヤのモード試験の結果から基準タイヤと比較タイヤの車両仕事率の差ΔWDを求めて、(3)式から比較タイヤを装着した場合の推計燃費値F‘を算出します。(手法の説明は、JATAホームページの中のタイヤの技術解説の4ページ目を参照)

したがって比較タイヤの燃費推計値F‘は、(3)式になります。

右図は等価慣性質量1750kg、排気量2.3L、ミニバン型ガソリン車(A車)に、AAAクラスのエコタイヤを付け替えて各種モードを走行した時の基準タイヤに対する燃費改善率を予測した例ですが、結果は一般的に言われている燃費改善率にほぼ近い値と思われます。なおこの計算では、モード運転は暖機スタートでの条件とし,基準タイヤでの燃費はA車を台上運転した時の実測値を用いています。

タイヤをAAAクラスに変えた時の基準タイヤに対する燃費向上率(%)の推計結果